サタディナイト(日向の場合)








 週末に松山が来るようになって半年。
 その殆どが近所の連中が勝手に集まって始まる飲み会だが、松山は二人っきりになることに特に抵抗がある様子も無くオレが一人の夜も現れた。
 お互い練習があるから松山が来るのも大抵夜遅くなってからだし、ナイトゲームの後だったりするとウチに来て飯も食わずに寝ちまうなんてこともじつは多いのだが、意外にオレは同居を言い出せずにいた。
 なんというか・・・。
 オレが思ったよりもいい関係でオレ達は続いているので、余計なことを言っていまの状態から後退するのが・・・多分怖いのだ。ドラマの主人公がオレみたいなヘタレだったら、とっくにチャンネルを変えていた。


 その日も松山はコンビニの弁当片手に現れた。靴は揃えない、上着は脱ぎっ放し、そんな松山のザッパな仕種も日常になり始めていた。
「なんだ?随分買い込んできたな」
「今日映画あるんだよ、ジュラシックパーク・・・の続きだったかな?」
 松山は弁当の他にプリングルスや何やらの入ったコンビニの袋からビールだけ取り出すと、一本を残し冷蔵庫に入れた。新聞を開きながら既にリモコンを手に持っている。オレもちょうど飯を食うところだったので、温めていた弁当をレンジから取り出し松山の隣に座った。
 狭いスペースで肩を並べると、松山がオレの弁当を覗き込んでくる。試合の後シャワーを浴びたのか、トニックシャンプーのにおいがした。オレがそんなことを考えているなんて、松山は思いもしないだろう。付き合い始める前と変わらず、松山はオレに触れたり話し掛けてくる。まあようするに、相変わらずド突き合いしているってことだが。
 オレがアイツを抱くようになってからも、松山の態度は変わらなかった。松山が意識するしないにせよ、避けられるようになるんじゃないかと危惧していたオレは松山の変わらない態度に逆にいちいちドキドキした。
 だけど、オレの前ですっかりリラックスしている松山を見るとこの関係をずっと続けたい、そうも思ってしまうのだ。

 映画が始まると松山はすぐにストーリーに惹き込まれ、食い入るように画面に見入った。主人公達が恐竜に出会う度、「わ!」などと小さく叫んでいる。オレは、手にしたサッカー雑誌を読みながら吹き替えだけ聞いていた。
 左腕に体温を感じ何気なく振り向くと、松山はいつのまにかオレのTシャツの裾を掴んでいた。こっそりと横目でその顔を覗き込むと、映り込んだ画面で潤むように耀く目の上で眉根を寄せ、やはり「あ!」とか「わ!」と小さく叫んでいる。視線の先を追ってみたが、オレが見る限り主人公達はまだ危機的な状況には陥っていないようであった。
 CMに入りオレが立ち上がると、驚いたように松山が声を上げた。
「どこ行くんだよ!」
「トイレ」
「さっき行ったじゃねえかッ」
「ビール飲んでるからだよ」
 松山はもうとか何とかいいながら早く行けそして早く戻って来いとオレをせかした。もとの場所に戻るとちょうどCMも終わり、また松山は食い入るように画面を見始めた。
 松山の手は再びオレのTシャツを掴んでいる。少しずつ、ヤツの顔がオレの肩に近付いてきて、気が付くとオレの肩越しにTVの画面を窺っていた。どうやら松山は登場人物にかなり感情移入してしまっているらしく、必要以上にドキドキしているようであった。ためしに先程の雑誌を松山の背後に抛ってみると、驚いてオレにぶつかってきた。
「何しやがる!!」
「随分ビビッてんじゃねえか」
 松山はパッと離れカーーッと赤くなると何か言おうとしたが、怒りと、事実を指摘された羞恥で「あ、」とか「う、」とか言っている。
「ああもう!余計なこと言うから見逃しちまうじゃねえか!」
 そう言って松山は画面へと顔を逸らした。オレは、松山の肩を掴むと自分の手前に引き寄せ、背中から抱きかかえた。
「ジャマすんなよ、ウゼエんだよ!!」
「こうしてりゃ背中も安心だから落ち着いて映画が見られるだろう」
 松山は「もういい!」とか言いながら一度ゴツッと頭突きをしてくるとわざと体重を掛けもたれ掛かってきた。
「テメエにかまってるといいトコ見逃しちまうからなッ」
 そう言って、意にそぐわないといった感じだが再び映画を見始めた。
 オレは、膝の間で体育座りをしている松山を背後から抱き締めながら、一緒に映画を見ているようで意識は腕の中の松山だけに集中していた。
 先程感じたシャンプーのにおいが洗いざらしの髪から香ってくる。誘うような首筋。オレはいますぐ肩口に顔をうずめたくなるのをグッとこらえて、腕の中の松山を抱き直した。
 すぐにまた映画の中に惹き込まれてしまった松山は、自分を抱えるオレの腕を掴んできた。松山がびくりとする度だんだんと強く掴まれる。結構大きい松山の手のひら。その体温というよりは熱を感じ、強く掴まれた部分を意識してしまう。
 気が付くと、松山の心臓は物凄い速さで拍動していた。ヤツを抱きかかえる腕が、掴み寄せられより心臓に近いところに宛がわれる。ドクドクドクドクと凄い勢いでヤツの心臓は拍動していた。画面を見ると、先程のティラノザウルスとは別の恐竜に主人公達が襲われている。
 90分フルで出場した時でも、松山の心臓はこのような苦しい動きをするだろうか。
 オレはちょっとおかしくなってきて、変な気を起こしている自分がバカらしくなった。
 しばらくすると、映画の展開が見えてきて安心したのか松山はビールを口にしながらオレの肩に頭を預けてきた。拍動はもう正常に戻っていた。たまにはこんな週末もいい。


 映画が終わると特に見る番組もなく、満たされたオレはこのまま眠ることにした。まだ眠くなさそうな松山をおいて。
 以前は松山が来ているのに寝てしまうのは勿体無いような気がして眠れなかった。いまでは、松山のいる部屋で眠るのも心地いいことだと知った。松山はもう一度フロに入ると言ってバスルームに向かった。オレは、ベッドの中でその水音を聞いていた。

 しばらくして、水音が聞こえなくなったことにオレは気付いた。松山は長く湯船に浸かるほうじゃない。そんなことはないと思うが、まさか倒れているんじゃ。
 まだそれ程眠くなかったオレはベッドから降りるとバスルームへ向かった。うずくまるような人影。ハッとして入口を開け、オレは言葉を失った。
「おい、ブッ倒れてるんじゃ・・・」
 顔を上げた松山が腰を折るようにしてうずくまる。オレは慌てて入口を閉めた。
 松山は・・・自慰をしていたらしかった。ベッドでしか見られない松山の上気した顔、潤んだ目。決してのぼせた表情じゃない。まずったかなと思った。誰だって見られたい行為じゃない。
 しかし、それよりオレの頭は驚きで一杯だった。あの松山が。
 そりゃいい歳した男なんだからマスぐらい掻くだろうけど。女とだってしたことがあるだろう。だがこういった関係になってから求めるのはいつもオレからで、松山自身にも性的な欲求があることをどこか忘れていた。
 松山も・・・オレとしたかった?

 松山はいつまで経ってもバスルームから出てこなかった。当然だろう。オレは、ベッドから腰を上げると浴室の入口を開けた。
「のぼせるぞ。いい加減に出ろ」
 松山は、いまにも泣き出しそうな顔で湯船の端に身を寄せていた。髪が汗でしっとり濡れている。
 オレは、誘われるように浴槽に手を掛け、松山に口付けた。
 身をよじり、松山が逃れようとする。だがオレは逃さなかった。小さく震える舌を絡め取り、愛撫する。粘膜質を擦るように舌を這わせると、浴室では驚く程水音が響いた。唇がわずかに離れる度、互いの唾液が混ざる音が卑猥なくらいの響きで繰り返される。
 オレは、唇を離すとそのまま湯船に手を差し入れた。驚く松山に構わずヤツの中心を握り込む。
「何しやがる!!」
 松山が怒ったようにオレを押し遣ろうとした。しかし、中途半端に放り出されていたのであろうソレは、オレが手を動かすとすぐに煽られ始めた。
「ん!ぁっ、ぁっ、ヤ・・・だ!」
「出しちまえよ、まだなんだろ」
「ヤ・・・だ!」
 松山はかぶりを振るが、オレが激しく扱くように手を動かすとたまらず首にすがりついてきた。先端のぬめりを拡げてやるように親指で拭うと、松山の体に震えが走るのが腕から伝わってくる。オレはすがりついてくる松山の頭を抱えるように腕を回し、敏感な耳に息を吹き込みながら唇を這わせた。次いで再び唇を重ねる。
「オレの手でイッてくれよ」
 射精を促すように根元から先端まで激しく扱くと、松山はビクビクと痙攣して湯船の中に達した。乳白色の液体がすぐには混ざり合えず拡がる。

 松山はぐったりとオレの肩に顔をうずめていた。今度は本当にのぼせてしまったようだった。
 オレは松山を抱え上げるとベッドまで運び、バスタオルで包んだ。


「う・・・」
 松山が小さく呻いて顔を上げる。
「頭痛いだろ?」
 オレは冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと、コップに半分だけ注いでやった。抱え起こすと、口元にコップを運んでやる。
 松山はごくごくと飲むと、それまで額にあったタオルを手にし、オレにもたれ掛かってきた。
「頭・・痛い。オレ・・・・?」
「のぼせたんだよ。30分も横になってたからもうよくなるだろ」
 突然カーーッと赤くなると、松山はフラつく体でオレから離れようとした。
「オマエが!あんなことするから!」
 思い出して泣き出しそうな松山を強く抱き締め、オレは耳元で続けた。
「なんで・・・。オレ、嬉しかったんだぜ。したいのはオレばっかりだと思ってたから。無理させてんじゃないかと思うこともあった」
「オレは、無理矢理男に押し倒される程弱くない」
「わかってる。オレが弱いんだ、オマエのことだとすぐ考え過ぎちまう」
 オレはもう腹を括って話してしまうことにした。
「一緒に住みたい。でもいまの関係が壊れるのもイヤだ。オレ、オマエといたら自分を抑えられそうにねえもん」
「イヤな時はイヤだって言うよ、オレ。オマエの好きになんかさせねえよ」
 そう言って、松山は俯いたまま続けた。
「オレだって、オマエとしたい。でも今日みたいに何もしなくても一緒にいられると。何もしなくても一緒にいられるんだと思うと、凄く嬉しくて、急にオマエのことが凄くスキだと思って・・・」
 松山のうなじが真っ赤になっていた。オレは、背中からその肩口に顔をうずめると、愛しさを込めて抱き締め直した。
「なんか、自分が恥しくなってきたぜ・・・」
「オレも」
 しばらくお互い言葉を発せず黙っていたオレ達だったが、松山がぽつりと言った。
「する?」
「いや、ここでこのまま眠るのがオットコマエなんじゃ」
「でもオマエ、半勃ちじゃん」
「オマエも、そういうこと言うなよ」
 意識してしまうと、オレの中心は逆に収まりそうになかった。
「じゃあ・・・したい」
 松山は、身を硬くしながらも、初めて誘いの言葉を口にした。
 オレは、抱き締める腕に力がこもるのを止められなかった。


 松山の顎に手を掛け、無理矢理上を向かせると背後から抱き締めたまま口付ける。膝の間の松山が苦しげに身をよじり、それでもキスに応えてきた。さっき一度自分で着せたパジャマの裾をズボンから引き摺り出すと、手のひらを差し入れすべらかな腹部に這わせる。
「んっ・・・」
 力が抜け、松山が必死に両手で支えながらももたれ掛かってくる。その甘い重み。
 オレは首筋に唇を這わせながらその引き締まった腹部、脇へと手を這わせていった。松山はオレの手首にたくしあげられるパジャマの衣擦れにさえ感じていた。そのまま小さな突起を探り当て、摘み上げる。
「あっ・・っ・・」
 摘み上げた指先を擦り合わせるように動かすと、たまらず松山が声を上げた。右手はそのままに、腰を抱え込んでいた左手をズボンに差し入れる。トランクスの中に手を入れ、中心を握ると仰け反る松山の頭が肩に当たった。
 パジャマのボタンを外し、ズボンを膝まで脱がせるとトランクスも膝まで引き上げた。再び松山の中心を握り、強弱をつけて扱く。松山の吐息が切なくせわしげになり始めた。
 肩越しにオレの手のひらに煽られ、登り詰める松山自身が窺える。太腿が小刻みに震えていて、オレの愛撫に激しく感じている松山自身にたまらなく興奮した。もっと、もっと強く感じさせたい。
「・・ぁっ、ぁっ、ぁっ・・んんっ」
 次から次へとこぼれ始めた滴を指に絡め、オレは最奥に指先を移動させた。中指を差し入れ、鉤状に曲げると松山は引き寄せた膝に額を擦り付ける。オレはその膝裏を掴み、松山の胸元に引き寄せると更に薬指を差し入れた。
「・・・!!ぁっ!ぁっ!」
 抱えた足先が痙攣する。オレの腕を挟み膝頭を擦り合わせるように、松山が身をよじった。
「松山、どこが感じる?」
 知っていて、いじわるな質問をする。本当は、何か話していないと自分がおかしくなりそうだった。
 敏感な部分を強く擦るように指を抜き差しする。
「ヤ・・!ダメ、ダメだって・・!」
 かぶりを振る松山に、オレは指先を引き抜くと再び中心を扱き始めた。
「やぁぁぁぁん!!」
 最初の時より、ずっと扇情的に手を動かす。
「ひゅ・・が・・!ダメっ、ダメだ・・ヤめ・・!」
 何故か必死になって松山はオレの腕を振り払おうと掴んでくるが、先端を親指で強く弄りながら手淫を与えると、ビクビクとオレの手のひらの中で達した。松山の心臓は、さっきよりずっと激しく拍動していた。ぐったりと背を預けてくる松山に耳元で確かめる。
「入れてもいいか?」
「そ・・ゆこと言うな・・・・!!」
 松山は、はぁはぁと肩で息をしながら睨みつけてきた。でも真っ赤な目尻に、その目はすっかり行為に潤んでいる。
 オレは正座したまま額をシーツに押し付けるように松山をうつ伏せにすると、松山以上に熱く硬くなっている自身を宛がった。ゆっくりと挿入し、そのまま肩や背中に口付けると松山が繋がれたまま切なく身をよじる。肩を掴んでいた手を抱き込むように前に回し、這わせながら徐々に下ろしていくと松山が制した。
「ダメ・・だ・・、前触られたらイッちまう・・から、触んな・・で・・っ」
「ツラクねえか?動くぞ」
「んっ」
 肯定なのか喘いだのかわからない声が上がる。だがオレの声のほうがずっと熱に浮かされていた。
 動き始めると松山からこぼれる吐息が次第に喘ぎに変わる。松山が声を上げたがらないのを知っていて、オレは弱いところを集中的に穿ち続けた。擦り上げられ、敏感になってしまった内壁の襞を蹂躙するように突き上げ、引き抜くと更に強く突き上げる。腰骨の辺りを指が食い込む程強く掴み、松山を求めた。
 松山が何度もオレの名前を呼ぶ。口元に宛がった指に飲み込みきれない唾液が伝わっていた。シーツに落ちる松山の真っ黒な髪がことさら扇情的だった。
 挿入でここまで感じる松山は初めてだった。
 オレは、シーツを握り締めているほうの手をその上から握り締めると、もう片方の腕で腰を抱き締めもっと奥までと穿ち続けた。
 松山は眉根を寄せ、濡れた睫でなんとか目をひらくと吐息で途切れ途切れに言葉を綴った。
「もっと・・シテ欲しい・・っ、もっと、奥までシテ・・っ」
 オレは、松山が壊れるんじゃないかという程強く松山を抱いた。


 松山は死んだように眠っていた。それでも、時折隣に座るオレに額を摺り寄せ膝に手を掛けてきた。
 すっかり眠気が飛んでしまったオレは、松山が買ってきたビールを開けベッドからチャンネルを替えていた。音が無いのはなんだか照れくさかった。

 明日の朝松山はどんな顔をするだろうか。いつもと変わらず憎まれ口を叩くだろうか。それとも照れていつまでもベッドから出て来ないだろうか。
 いまはどちらでもよかった。それでも自分の気持ちは変わらない。
 一緒に住みたいともう一度言ったら、松山は何と答えるか。嫌だと言われたらまた半年後に訊くまでだ。
 同じ毛布にもぐり込み、リモコンでTVを切ると松山と額を合わせる。
 唇を一度重ね、オレは眠りについた。








END



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