アイボリー 温野菜と柔らかめのリゾット。渡伊してから日向はまた料理のレパートリーが増えたが、松山好みの僅かに和風な味付けは変わらない。ばくばくと大きな口で空っぽの胃に詰め込む松山を、日向は満足そうに眺めていた。 「なんだよ」 「何がだ?」 「ニヤニヤ見てんじゃねえよ」 本当は、ここまで元気になった礼が言いたいのにさっきから逆の言葉ばかりが零れてしまう。口端についた米粒を人差指でツイとすくわれ、ビクリとしてしまう自分に腹が立った。 こうなったらもう。 強がりが見え見えでも何でもとにかく口にしてしまうしかない。松山は最後の南瓜を口に詰め込むと、「まだ胃が弱ってんだからよく噛め」だの何だの、ハハオヤのような口煩さで自分を子供扱いする日向にこれ見よがしによく噛んで見せ(そこが子供なのだが・・・)、ミネラルウォーターで食事を締め括った。 「ちゃんと憶えてるからな」 「何を?」 「治ったら・・スルって・・!」 いつだってわざとそ知らぬ振りをして自分を弄ぶ日向に、松山は今度こそ負けまいと精一杯余裕な態度をとった。 「!!」 驚く日向に自分からキスをする。伏せた睫の間から窺い見た日向の瞼は見開かれ、僅かに紅潮していた。そのまま思い切って舌を差し入れようと日向の顎に手を掛けた瞬間、視界が一転した。 先程まで背にしていたベッドに抱き上げられ、押し倒されるカタチで唇を奪われる。いまさっき自分が仕掛けたキスなんかとは、比べようもないほど激しいキス。加えて顎から咽喉元に掛けられた手のひら、自分が熱にうなされている時に何度も額に当てられたその大きな手のひらに、今迄にないほどゾクリとしたものを感じる。ザラリとした指先が僅かに肌を移動する度、松山は大きく体を震わせた。 そんな松山の反応に素早く気付いた日向は、悪戯に、何気ない振りをして指先を移動させる。顔の角度を変えさせる振りをして、顎から耳朶に中指を這わせた。そっと内耳に差し入れると、あからさまにソコを攻め始める。 「や・・っ・・っ!ヤダ!日向!」 真っ赤になり松山が身を捩る。ソコは、多分松山のイチバン弱いところである。やんわりと指先を差し入れるようにくすぐられ、触れられた部分から痺れるような甘い快感が全身に一気に溜まる。左手でガッシリと肩を押さえ込んだままくすぐる内耳に唇を寄せ、日向はわざと低音を更に低く響かせ松山に囁いた。日向の意図する通り、松山は瘧のように体を震わせると日向の背中に回した腕で縋り付くように抱き付いてくる。 「ヤダじゃねえだろ。こっちより、ここのほうが感じるだろ?」 意味深に膝を足の付根、の中心に押し付けた。 「や・・っ」 抱きすくめられ、身動きも出来ない状態でいつもより強く煽られ始める。自分が抵抗出来ない状況を、日向は無意識に利用して仕掛けてくるように思えた。与えられる快感をどう解消すればよいのか苦しげに見えるほど眉根を寄せる松山に、日向は適度なタイミングで絶頂を与えていたが、実際こうして強く煽ることがあった。多分本当に無意識に。日向本人が理性で抑え込めると考えているよりも、本当はもっとずっと松山を求めている。そして松山も無意識に求めている快感の向こう側は、こうして日向に手を引かれなければ越えられなくて。 熱く濡れた舌の感触、時折立てられる淫猥な水音に抵抗する力さえも奪われ、両肩をガッシリと押さえ込みながら肩口に顔をうずめるように耳元へ唇を寄せてくる日向に、松山は降参したようにそのシャツを引いた。 「ひゅ・・が・・、ひゅうっ・・・・!」 ペロリと耳の裏を舐め上げられ、綴り掛けた言葉が途切れてしまう。再度そのネイビーのTシャツを引き、何とか自分に注意を向けた。 「も、頼むからそこ・・ヤ・・」 視界から、生理的な涙が滲んできているのが自分でもわかった。体中が熱を持っているが、特に頬が紅潮しているのが何故だかわかる。そんな松山の様子に満足したのか、チュッと触れるだけのキスをすると日向はパジャマの上から松山の体に手のひらを這わせ始めた。顔は唇を掠めるような位置でそのままに、布地越しにゆっくりと手のひらの熱を伝える。 直接触れるでもなく、乱れたパジャマが擦れるように既に立ち上がってしまった小さな突起に触れ、松山はまた意地悪な快感に翻弄され始めた。 「もお、なん・・で・・!」 自ら腕を回すと日向の首に縋り付き、言葉に出来ない催促を伝える。擦り寄る松山が耐え切れず震えている様子にクスリと笑みをこぼすと、日向が手の位置を移動させる。 「何で?オレはオマエに言われるがままだぜ?」 そう言って、やはり布地越しに松山自身を包み込んだ。 「んう!!」 パジャマの上からとはいえ、ここまでとは比べ物にならない快感に抱きすくめられた松山の体が仰け反る。そのままさするように何度か手のひらで握り込み、ピタリと動きを止めた。ドクドクと、激しく松山の脈が布地越しなのに伝わってくる。中指を中心から撫で上げるように強く這わせると、指先の動きに合わせ震える吐息が吐かれた。自分の手のひらに合わせ浅く深く松山が呼吸を震わせる。ハァハァと引き攣るその様子が、松山の限界を伝えていた。縋り付き肩口にうずめられた松山の顔の位置が、日向の耳元でこれ以上ないほど扇情的な呼吸を伝えた。それでもなお、日向は曖昧に弄ぶような指先の動きで松山にその先を促す。 「ひゅ・・が・・っ」 「ん?」 「ひゅう・・・っ」 求められるだけの甘えた関係だと知っていて、こんな時まで素直になれない。松山は、顔を見られることのないよう強く額を日向の肩に押し付けると、震える声でいつもは決して口にしないその先を綴った。 「直接・・・さわって・・っ、して、ほし・・っ」 恥しいことじゃないのに涙が零れてしまうのは、自分が日向を求めていることを、その熱さを実感してしまうから。こんなにも、スキ。そんなはずはないけれど、たとえ独りよがりの思いだとしても。 日向は先程とは反対側の耳朶に小さく口付けると、下着の中に滑り込ませた手のひらでやんわりと中心を握り込んだ。 「や・・・っ!んう!」 求めておきながら、腰が逃げてしまうほどの痺れに貫かれる。 「あ! ひゅう!ひゅう・・が・・!」 もう既に絶頂直前の先端に、日向はザラリとした親指の腹を撫でつけこれまでの愛撫とは一転するような強い快感を与えた。 「ひゅう・・んんっ・・・!!」 嬌声も上げられないほど強く体を強張らせ、松山は縋り付く日向のその手のひらに熱い白濁した迸りを吐き出してしまった。意識を手放してしまいそうなほどの快感。 ぐったりと仰向けのままシャツの裾を掴んでくる松山の、汚れた腹部を拭うと日向は手早く松山のパジャマを整えた。 「ひゅ・・が・・?」 濡れた熱い眼差しのまま、松山が日向に問い掛ける。 「続きは明日だ。また寝込まれると面倒だからな」 でも、と力を込めるシャツを掴む手のひらを日向はやんわりと握り、身を屈めると重ねるだけのキスを与えた。 「あんまり引き止めんな。バスルームまでもたねえだろ」 そう言って起き上がると、Tシャツを脱ぎ捨て本当にバスルームに向かってしまった。 松山は寝返りを打つ体力もなく仰向けのままぼんやりと天井を眺めた。(明日も居るんだ・・・) そんなことを考えてしまった自分に、再び頬が紅潮する。 明日は・・近くの競技場でサッカーがしたい。早朝の公園でもいい。一日中一緒にボールを蹴って、それでも体力が残っていたら夜には一緒のベッドで眠ってやってもいい。 どうせ目が覚めれば日向の腕に抱かれていることを知っていて、そんな翌日の計画を立ててしまう自分に松山は少し苦笑いした。 このまま本当に眠ってしまっても、明日にはいつも通り一緒にボールを蹴っている。いつのまにかこんな関係になれた自分達を、松山は大切な星のように抱いて、眠りに引き込まれた。 END |