BED








 くの字に折り曲げた体をベッドに横たえ、喘ぐように肩で息をしている。
 膝までトランクスごとジャージを下ろされた太腿とシーツには、ここまでに至る過程を乳白色の飛沫が語っていた。
 松山は両掌をぐったりと口元のシーツに落とし、たくし上げられたTシャツとその腕の隙間からは小さなベージュの果実が垣間見れ、周りに紅い跡がところどころ残されているのが上気した肌の上で尚更際立っていた。


 いつのまにこんなことになったのだろう。今日は欧州遠征を試合内容のよい勝利で終え、久し振りに夕食後アルコールを楽しんだ。別に弱くはないが(むしろ最後まで意識を違えず飲み続けるほうだ)こんな風に遠征先のホテルで何杯も飲むのは、松山は割りとめずらしいことだった。気持ちよく酔ったところで先に席を辞し、部屋に戻ってシャワーで再びアルコールを抜くと部屋着代わりのジャージに着替え、携帯でメールを読んでいるうちにウトウトと眠ってしまったようだ。
 そして、気が付くといつのまにか日向が戻ってきていた。
 松山は背後の高い位置から日向の視線を感じ、身じろぎ出来ずにいた。日向は移動の時着用していたスーツのまま、上着だけ自分のベッドに脱ぎ捨て横座りするように松山のベッドに腰掛けていた。ネクタイを緩めながらも、上下する松山の肩から視線は外さない。
 日向は自分がたくし上げたTシャツから肩甲骨、そして直線にスッと美しく流れる背骨を見ていた。まだ成長途中の腰骨の辺りは自分に比べるとずっとキャシャではあったが、健康的に若い筋肉につつまれている。その部分だけを中心に露にあばかれ、中途半端に衣類を纏った姿が逆にいやらしい。日向は身をかがめると、松山のこめかみにひとつキスを落とした。 再びTシャツの中に手を滑り込ませると、さっきまでプツリと主張していた小さな突起を摘み上げる。親指と人差指の腹で捏ねるように刺激を与えると、それはすぐにまたプツリと立ち上った。
「や・・・・・」
 グッタリと力ないまま松山が身をよじる。日向は無視してその小さな突起への愛撫を続け、唇を寄せた耳たぶに舌を差し入れた。
「やっ・・・んっ・・・」
 淫猥な音を立てる舌に聴覚から犯され、抵抗のつもりが喘ぎにも似た声が上がってしまう。イッたばかりで逆に敏感になっている体に掌を這わされ、松山はビクビクと体を痙攣させた。
「や・・・・・、ひゅ・・うがぁ」
 太腿に這わせた掌で飛沫を拭うと、日向はそれを松山のヘソの辺りに塗り付けるように弄った。その卑猥な意味に、松山の上気した顔へ更に朱がそそがれる。本当に弱い下腹部をしつこく弄られ、こぼれる吐息は先程よりも甘く泣かされていた。くの字がさらに折り曲げられ、シーツに渦を残す。明かりは消してもらえず、渦に沿って蒼い影を落としていた。そうして痴態を日向の目前にさらしている自分に、松山はどうにかなってしまいそうだった。
 日向は体をかがめ耳の裏を舐め上げながら掌を下腹部から更に下へ這わせていった。再び滴を滲ませた松山自身をやんわり握り込むと、触れる程度の力でゆっくり扱くように手を動かす。そうしながら、親指の腹を滲んだ滴を拭うように強く先端へ撫で付けた。
「やぁああ!!あっあっ・・・っ・・・っ」
 過ぎる快感にぎゅっとつむった目尻からじんわりと涙を滲ませ、歪んだ口元できつく握り締めていた拳を歯に押し付けて松山は何とか嬌声を堪えた。それでも咽喉の奥が泣いてしまう。
「んんん!!」
 日向は口元で握り締めている右手をやんわりと掴むと、ゆっくりと仰向けにさせ咽喉元に口付けた。柔らかく、はむように口付けると、後頭部を浮かすように松山が仰け反る。
 唇を重ね、深く舌を絡ませる。吸い上げたりはせず、ただゆっくりと深く重ね合わせた。
 松山は突然の猥らな行為に動揺させられ、ここでまた初めての頃のようなキスにすっかり混乱してしまった。日向が何をしたいのかわからない。
 艶やかな膜を張るように潤んでいた松山の黒目がちな目から、とうとうぽろりと涙がこぼれた。日向は涙を唇で辿ると、部屋に戻ってから初めて言葉を口にした。
「そんなにイヤか?」
「え・・・・・?」
 日向は松山に覆い被さるようにかがめていた体を起こすと、松山の両肩の横に手を置き上から覗き込むように見詰めた。
 普段は余り思いの丈を表情に表さない日向の目が、傷付いたように、だが怒りを交えて松山に注がれていた。
「いつもヤだしか言わないだろ?本当にイヤか?」
 松山は言葉を失った。まさか日向がそんな風に思い悩むなんて考えもしなかった。自分が、今迄知らず日向を傷付けていた?
「せっかく久し振りに相部屋になったのに飲みに行っちまうし。しかも何時の間にか先に戻って寝ちまってるし。会いたかったのはオレだけか?」
 何て答えたらいいのかわからない。そんなことはない、自分だってずっと日向に会いたかったのに。
「オマエはスキなヤツに触れたくないの?」
 そう言って、日向は松山にかすめるようなキスをした。
「ちがっ・・・」
 恥ずかしくって、与えられる快感が自分には余りにも過剰で、ついイヤだと言ってしまう。でもそれをどうやって説明すればいいのだろう。
 いつもに比べて饒舌な日向は、酔っているのだろうか、それともそれだけ怒っているのだろうか。
「じゃあもっと、気持ちイイことしてやるよ」
 そう言うと、日向は体の向きを変え松山の上半身に覆い被さり動きを封じると、腰掛けた側からは反対の太腿を抱きかかえいきなり松山自身を口に含んだ。
「やああああ!!」
 今しがた否定したばかりの言葉が叫ばれる。試されるかのように、突然与えられる激しい愛撫。
「ひゃ・・・っっ、あ、や、ひゅ・・・が!!」
 日向は松山自身を深く銜え込むと、狭い口内で刺激を与える為軽く歯を立てながら舌で舐った。先端では舌先でわざと敏感な部分を強く舐る。
「ああっん!!ぁっ、ぁっ、ぁ・・・っ!ヤダ!」
 押さえつけるように抱かれた膝頭がガクガクと痙攣し、足の指先がシーツを掴んだ。
「ひゅ・・・が・・・!ヤダ!こういう・の、オレ、ヤッッ・・・・・」
 松山はしゃくり上げるように嗚咽をこぼしながら、日向のワイシャツを掴み乱れた呼吸の間で必死に言葉を綴った。
「こんな・の・・・!こんな・カッコウ、で、こんな風・・・っにされるの、オレ、ヤダ・・・!!」
 そのすんなりした片腕で両目を覆うように顔を隠すと、松山はそのまま涙が止まらなくなってしまった。
 だってこんな風にいいようにされて。
 いやらしく、すべてに反応してしまう自分の体が恥ずかしい。
 自分だけイかされて、明かりの下そんな様子を見詰められるのはもっと堪らない。
 日向は体を起こすと額に口付け、松山の肩に顔をうずめてしばらく動かなかった。
「悪かった」
 そう言うと日向は緩めていたネクタイを外し、ワイシャツを脱ぐと下着ごとスラックスを脱いだ。抱き起こされた松山は、身に着けていた衣類をすべてベッドの下に落とした日向に、今度は中途半端に身に纏っている自身が恥ずかしくなってしまった。
 そんな松山の服に、ゆっくりと日向が手を掛ける。ジャージを引き下ろすと、膝裏を掴んでゆっくりと片足ずつ持ち上げ引き抜いた。足先に触れる日向の指に、それだけでも松山は感じてしまう。促がされ、両手をゆるりと上げるとTシャツも脱がされた。
 先程と同じ、重ねるだけの、優しいだけど激しいキス。思わずまた涙がこぼれるのを堪え切れず、松山は自分から舌を絡めた。
「ひゅ・・・が・・・、スキ、だ・・・・・」
 深く、深く唇を合わせる。
「けど、オレ、女みてぇ」
「オマエに抱かれて・・・、あん・な・・・、風に、なるなんっ・・てっ・・」
 息も出来ないようなディープ・キスの間に、今迄言葉にしなかった思いを吐き続ける。
 そんな松山の頭を抱え込み深く口腔をむさぼると、日向が耳元であの腰にクる重低音を落とした。
「バカ・・・オカシイのは、オレのほうなんだぜ」
 日向はそう言うと、松山の手を握り自身に添わせた。掌で感じたこのとない日向自身の熱に触れ、松山は驚きと戸惑いで顔に血が上るのを感じる。
「オマエは触られたら感じて当たり前のところ弄られてんだからしょうがねえんだよ」
 松山の肩を抱き寄せ、顔が見えない位置で日向が続けた。
「オレは・・・男のオマエにこんな風に欲情してんの。やっぱオカシイか?コワイ?」
 日向が自分に欲情している。
 そんなこと松山は考えたこともなかった。入れる前から、日向も感じているの?
「松山・・・オマエの手でシテ」
 日向はそう言うと、松山の手の上からゆっくりと自身を扱き始めた。
 それまでも十分熱くて硬かった日向のソレが、ますます熱を持ってその存在感を増す。
「ふ・・・・・っ、うっ、」
 余り聞くことのない日向の濡れた呼吸に、松山は急激に自身にも熱が溜まるのを感じた。いつもは射るように投げ掛けられる視線が伏せられ、黒い睫の下で日向の瞳も熱を抱いている。端整ながら野性味を帯びた顔立ちは同じ男なのにどこか惹かれてしまう。松山は思わず日向に口付けた。いつものようには目を閉じず額を擦り合せるように何度も口付ける。掌の中でドクドクと脈打つ存在が、自分の耳元をかすめる呼吸と重なり、いつのまにか自分から手を動かしていた。重ねられる掌と、自分の掌の中の日向自身、どちらからも熱い熱が伝わり愛しさが込み上げる。
 理由なんてない、体を重ねたい。
「日向、オレ、もうしたい・・・・・っ」
 片腕を首に回し、思いを耳から直接注ぎ込むように松山が告げた。
 日向は松山の肩を掴みベッドに横たえさせると、マッサージ用のオイルを手に取り指に絡ませた。
「いいよ、オレすぐでも」
「バカ。無理すんな。明日は帰国するだけったって、お互い1・2時間で着くわけじゃねえんだぞ」
 そう言うと日向は松山の片膝を立てさせ、ゆっくりと中指を差し入れた。
「んっ・・・・・」
 松山の甘い吐息がこぼれる。
 日向は欲望に濡れた視線で松山に覆い被さり、キスをするとまたもとの位置に戻り愛撫を始めた。差し入れた中指は第二関節以上は深く挿入せず、浅い所で内部を弄る。
 始めはただの異物感しか感じなかったのに、時々かすめる甘い感覚に松山は戸惑っていた。膝頭がつい擦るように寄せられ、日向のガッシリと筋肉に包まれた腕をその間で感じてしまい、紅潮する。だけど、自分が感じているのはそれだけではなくって・・・
(・・・なに?)
 日向は左手で掴んでいる膝裏を松山の胸元に押し遣り足先をより高く掲げさせ、露になったばら色の蕾に更に人差指を加えた。
「あっ」
 日向が指先に絡めたオイルだけではなく、松山自身からこぼれ始めた滴がその不埒な動きを助長する。抜き差しするだけではなく、二本で交互に内壁を弄っていたそのうちの中指がソコに触れた時、松山は今迄自分自身聞いたことのない声を上げていた。
「ひゃ・・・っ、ああっんっ!!」
 驚いて熱で潤んだ瞳をまんまるくさせている。大きな黒目が戸惑いに揺れた。
「ここ・・・いいのか?」
 そう言って日向は中指の腹で擦るように抜き差ししてきた。
「やああ・・・っ、だっ、ダメ!なんか、イッちゃい・そう・・・!」
 松山はそう言って片肘を付き半身を起こし掛けたままシーツを握り締めた。
「いいぜ、イけよ」
「やっ、ヤダ・・・・・っ、ひゅう・が、いっしょ・に、」
 眉根を寄せて絶頂を堪えようとする松山に、日向は口付けながら告げた。
「入れちまったら、オレ、もう冷静になれねえから。オマエがイクところ、一度ちゃんと見てえんだ」
「もお、なにいっ・・・てっ・・・」
 ベッドに上った、最初に言われていたらどんなに酷い言葉に聞こえたであろう日向の要求も、今は離れて暮らす恋人の愛しい欲望に思えた。膝を抱え上げられ、痴態をさらされているのに、それに欲情しているのは相手のほうだということが松山には今でも意外だった。だがしかし、日向は確かに自分に煽られ、そしてその姿が更に自分を掻き立てる。
「ああっ・・・ん、もお、ぁ、ぁ、イッちま・・・う・・・!!」
「・・・・・!!」
 いつのまにか最奥まで激しく抜き差しされていた猥らな指に、松山は日向の目前でイかされてしまった。
 ハァハァと引き攣るような呼吸で酸素をむさぼる松山に唇が触れるだけのキスをすると、日向は右手を添えた自身を今しがた指先で蹂躙したばかりの後孔に宛がい、一気に貫いた。
「ああああ!!」
 一際高い声が咽喉を嗄らす。先程の愛撫で快感を拾いやすくなってしまった後孔が、圧倒的な質量と熱にわなないた。
「ああっんっ、ひゅ・が、キツッ・・・イッ・・・」
 その両腕同様すんなりとした足を抱え上げ、腰骨を掴むと再び最奥まで穿つ。
「ああっ、くっ、ぁっ、ぁっ、キツイッ・・・てッ・・・」
「もっと、声聞かせて」
「やぁ、ン!なに、いって、」
 激しい挿入にガクガクと揺さ振られ、飲み込む暇のない唾液がこぼれてしまう。それなのに、内壁は擦り付けるように狭められより日向のカタチを感じようとしている。胃を突き上げるような存在感に全身が痺れた。
「はぁ、あっあっ、ん・なに、され・・たら・・」
 すがるように日向の腕を掴み、激しく腰を打ち付けられるので途切れ途切れになってしまう言葉を必死で綴る。
「くぅ・・・んんっ・・・!また、さき、ッちま・・うぅ!!」
 一緒にイきたい。松山は初めてそう思った。
 セックスが、こんなにも自分達の絆を深めるものだなんて知らなかった。「・・・っオレも、いっしょにイク」
 そう言って噛み付くようにひとつキスをすると、日向はズルリとギリギリまで自身を引き抜き先程知らされた松山の弱い部分を強く突き上げるように、貫いた・・・・・


「これで、しばらくマスのネタには困らねえ」
 先程までのやけに大人っぽかった日向はどこへ行ってしまったのか、それともこれは意外と照れ隠しなのか。日向は余計な一言で松山にボカリと殴られると枕に顔を落とし、うつぶせに転がった。そのまま松山の首を抱え無理矢理抱き寄せる。
「今日はオレもこっちで寝よう」
「バカ!シングルに野郎二人が寝られるワケねえだろ!」
 じたばたと暴れる松山を、だが日向は一向に放す気配がない。
 そうして暴れているうちに松山も諦めて背中に手を回してきた。
 くやしいけれど、日向と裸で抱き合うのは気持ちいい。体温を肌と肌とで直接感じるのがこんなにも心地よいことだなんて、日向に抱きしめられるまで知らずにいた。
 いつだって、自分を振り回す不遜な男。
 そんな日向が今日みたいに不安を投げ掛けてくるなんて、思いもしなかった。自分達は、それだけ時間を重ねて来たということだろうか。
 無造作にカットされている長い前髪を掻き上げてやると、やはり照れていたのか視線を外している日向がそこにいた。汗ですっかり湿った髪に手を差し入れ、今夜は何度目になるのかわからないキスをする。
「ちゃんと、愛してる」
 この先一生絶対言わないであろう言葉を日向に捧げ、松山は背を向け眠ってしまった。日向は松山の腰に手を回すと後ろ髪に顔をうずめ、その眠りを追うことにした。








END



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