0214 嫌なら自分のマンションに帰ればいいのに。 気まずいの何だの思いながら、この日を前後して結局オレは日向のマンションに居る。それがどうしてなのか、言葉にしては考えられないのだけど。 今日が本番で、オレのクラブにも去年を上回る量の小包が届いた。直接手渡された分も、本当は受け取りたくなかったんだけど、郵送された物を受け取って手渡された物は断るというわけにもいかないのでとりあえずお礼を言って受け取った。少し心が痛んだ。 受け取ったチョコレートはすべて、去年と同じくクラブを通して慈善団体に寄付してもらうことにした。高価な物が添えられていると本当に困るけど、本当は手紙も苦手だった。だって、オレはオレのスキなことをしているだけなのに、告白されたり感謝されたりするとどうしてよいのかわからなくなってしまう。スタンドから、檄や声援を飛ばされるのは大スキだけど。 日向の匂いのするベッドに転がって、アイツはどうなのだろうと考えた。日向はクラブのファンサービスで夕食会があるとかで、まだ帰ってきていない。そういえば、ファンからの手紙は見たことがあってもプレゼントの類いをこの部屋で見たことはなかった。アイツもどこかに寄付しているのだろうか。そんなことをどこか焦がれる気持ちで考えているうちに、オレはうとうとと眠りに落ちてしまっていた。 大きな手のひらに前髪を梳き上げられる。ベッドが傾いで体がそちらのほうにカクリと倒れた。 「んんっ・・・」 オレは仰向けに向き直り、ぼんやりとした頭を覚まそうと目頭をごしごしこすった。 「おかえり」 言ってしまってから、自分の言葉にカァーッッといまこすった目頭が熱くなる。自分の言葉が気恥ずかしいなんて、日向への気持ちを否定しよう否定しようとするオレを、ズルイとは思うのだけれど気恥ずかしさはどうしても拭えなかった。 そんなオレに気付かないフリをして、日向が唇の端にキスをしてくる。 「オレからだ。ちゃんと食えよ」 そう言って日向がオレの胸に置いたのは、こげ茶の包みに鮮やかなオレンジのリボンが結ばれた小さな小箱だった。 驚いて飛び起きたオレをニヤニヤと笑いながら、立ち上がりジャケットをダイニングの椅子に掛けた日向はネクタイを弛めている。 「おまっ・・オマエが買ったのかよ?!」 「そうだ。オレが、自分で買った」 てっきり自分がねだられるほうだと思っていて、でもまさか女の子に紛れてチョコレートを買うわけにもいかず、話題に上がった時の会話をぐるぐると考えていたオレはすっかり意表を突かれてしまった。 軽くて、小さなその小箱を両手に載せたまま言葉が見付からずその小箱から視線を外せずにいた。顔を上げて、日向が見れない。 「目立ってたんじゃねえの」 「多分メチャクチャ目立ってたな」 オレは売り場で頭ひとつ、いやそれ以上飛び出た日向が周囲の注目を浴びながらウインドーの前に立つ姿を想像してしまった。 いつのまにか再びオレの隣に腰を下ろした日向がリボンの端をつつく。 「食えよ。ちゃんとオマエの為に選んだんだぜ。甘いの苦手だろ?」 オレの手元を真横から覗き込むような姿勢が日向の呼吸をちょうど耳元に伝え、オレは日向が無意識に注ぐ低音とともに小さく吐息が掛かるのに、体を震わせないよう強張らせた。 リボンを解くとこげ茶の包みがパラリと落ちる。蓋を開けるとまんまるのチョコレートが四つ、鳥の巣のような細切れの紙に包まれている。 オレは、日向の視線を感じながらそのひとつを口に放り込んだ。 「ウマイ」 そのチョコレートは、きっとビターってヤツで中にはほろ苦いクッキーがくだかれていた。 「だろ? オレにもひとつくれ」 日向も甘いのは苦手のハズなのに、欲しがるのが珍しくてオレは言われるままもうひとつ摘み上げた。 その指先に、日向が顔を寄せる。 チョコレートにだけ触れるように、日向は歯を立てて咥えると覗き込むように傾けていた上体を起こした。 オレは、ネクタイを弛めた襟元から覗く日に焼けた首筋に見蕩れている自分にハッとして、慌てて手のひらの小さな小箱に視線を戻す。 「うん。ウマイ」 そう言いながら、日向はオレの右手を掴むと指先に再び顔を寄せた。チョコレートのついた人差指をほんのちょっと唇に含み、やんわりと舌をあてる。思わずビクリと反応したオレの体は、だけどそれ以上1ミリも動けなくって、その男らしい薄い唇がチョコレートのついた指先を探し当てては含むのをされるがままに許してしまった。 クク、と咽喉の奥から笑い声を漏らすと日向は突然立ち上がりダイニングに戻っていった。オレはからかわれていたことに気付いて、思わず掴んだ枕を投げ付けたが、あえなくダイニングの手前で日向が拾ってきたアロエの鉢にぶつかった。 日向は冷蔵庫からビールを取り出し、プルタブを引きひとくち飲んでからブロッコリーやらなにやら野菜を取り出した。ワイシャツの袖を捲り、手早く茹でる。不貞腐れ、シーツに片頬をうずめたオレのことはすっかりシカトで、ニュース番組を付け遅い晩酌を始めてしまった。 オレは、こっそりとそんな日向を見ていた。 いつもはすぐに着替える日向が、スーツのまま晩酌を始めるなんてもしかしたらもう既に少し飲んでいるのかもしれない。オレはネクタイを弛めた襟元にいつのまにかまた見蕩れていた。ユニフォーム姿がイチバンスキだけど、スーツを着た日向にも実は同じくらいドキドキした。 代表で揃いのスーツを着るようになって、初めて日向のスーツ姿を意識した。どことなくオシキセのオレと違って、袖を通す仕種がごく自然だった。同じワイシャツに同じネクタイ、同じスーツなのに、逆にみんなより大人びて見えたのは何故だろう。 すっかり覆い隠された日に焼けた肌や、鍛え抜かれた筋骨がジャケットを脱ぎワイシャツの襟元や袖口を弛めた時にちらりと覗えるのがどうしようもなくセクシーだった。オレは。オレはどうだろう。サッカー選手らしい体になってきたと自分では思うけれど、こんな体に日向は欲情したりするのだろうか。 学生の頃に比べて筋張ってきた手の甲を目の前にかざし、指の隙間から日向を見た。ビールが流し込まれる度に大きく上下する咽喉。太い鎖骨に落ちる深い影。読み損ねていた朝刊を今頃繰る手の甲は、オレとは桁違いにゴツゴツしていた。だけど、その長い指先までのラインがとても綺麗で。 そこまで考えて、オレは勢いよく右手を下ろすと真正面から顔をシーツにうずめた。いつのまにか自分に触れてくる時の日向を想像していた自分に頭に血がのぼる。 まったくどうにかしている。 起き上がり、日向と一緒に飲もうかとも考えたけれどなぜかオレは身動きができなかった。カサリと、日向のめくる新聞の乾いた音がTVの音とは別にこの部屋の中で響く。いま、日向がここに居る。 「なに?!」 突然軋んだベッドに驚いて上半身を起こすと、知らないうちにスーツをすべて脱ぎボクサーブリーフになった日向がオレを乗り越えてベッドの窓側へ移動した。 「何って・・・寝るんだよ」 そう言って、日向は自分の枕に頭を落とした。いつものクセで、窓側を向き横になっている。オレはバカみたいに意識してしまった自分が恥かしくて、一気に目が覚めてしまった。そんなオレに気付きもしないで日向はすっかり寝る態勢に入っている。 シーツの片側のオレが上半身を起こしているから、日向の背中、肩甲骨の辺りがその隙間から覗いていた。パジャマ代わりのTシャツに、くっきりとそのラインが浮き出ている。 さっきから日向の体ばかりを意識している自分にオレは頭を振り、まだ暖かさの残る室内に足を下ろした。キッチンの明かりだけをつけ、結局冷蔵庫からビールを取り出す。さっきまで日向の座っていた椅子に腰掛け、いまはもう眠ってしまったかもしれない日向の背中を見詰めた。 本当は、言葉にして考えるのが気恥ずかしかっただけで前から考えなくてはと思っていた。いつもいつも、日向から求めさせる自分をズルイと思っていた。だけど、ハッキリと自分から日向を欲しいと思うようなこともなくて、なんとなく先延ばしにしていたのだ。 だけど、気付いたからには今日がチャンス。 中途半端にまだ長い夜が、今日しかないと言っている。 そう考えた途端、オレの心臓はドクドクと脈打ち始めた。まるで試合開始前のように高鳴っている。息ができない。 中途半端に長いからこそ、ぐずぐずしているとすぐにチャンスを失ってしまう。一言目が言えないうちに、時間に追われ勇気は急速に萎えてしまうだろう。 思えば日向はどんな風に誘ってきていた? いままでどんな風に行為になだれ込んでいた? そこだけ記憶を塗り潰したように、頭の中が真っ白になる。思い出そうとしているのに思い出せない。なにか声を掛けなくては、日向が本当に深い眠りに落ちてしまうという焦りの中、手のひらに嫌な汗が滲むだけで依然咽喉には息を詰まらせるカタマリを感じていた。 日向もこんな風に感じることがあるのだろうか。 ドクドクと、苦しい鼓動と呼吸を堪え、オレを抱いていたのだろうか。 このままでは埒が明かないと、オレは思い切って立ち上がりベッドへと戻った。 「日向」 短い言葉なのに、震えが出てしまう自分の声に情けなくなる。 「日向」 声と同じくらい、震えている情けない腕をそっと伸ばし日向の肩に触れる。 眠りを妨げられイラついた返事を予想していたが、日向は起き上がり上半身を肘で支えるとまだ冴えた表情で向き直った。 「どうした? 眠れねえのか?」 ん?という優しい仕種で訊ねられると、急に先程までの勇気が萎えそうになる。オレは、勢いをつけて続けた。 「・・・たい」 「ん?」 「日向、したい」 実際に発せられた言葉は逆に恥かしいくらい掠れていた。 体中が一気に熱くなり、頭の中で心臓が鳴っている。どんなにきつく拳を握っても震えが止まらない。反面、そんな自分の反応が嫌だった。 そんなオレの左手を掴み、日向が引き寄せる。オレは、またいつものペースですべてを日向に任せないように、向かい合うかたちで自ら日向の膝に座った。 「随分積極的じゃねえか。今日はイヤダって言わねえのか?」 「言わねえ。オレが、したいから」 「じゃあ、キスしてくれよ」 手始めにな、と言った表情で日向が唇に触れてくる。オレは、震えが伝わるのもお構いなくその手を握り締めるとゆっくりと顔を近付けた。オレの唇に視線を落としている日向の睫毛が、伏し目がちになって濃い影を落としていた。 通った鼻筋に。そのシャープな頬にも。男らしいラインを形作る影がカーテンから漏れるわずかな明かりに浮かんでいる。唇が重なると、口端が上がり日向が笑っているのがその感触でわかる。啄ばむように促され、オレは自ら舌を差し入れた。 日向の前髪が瞼に触れると、同じくらい重なっている互いの胸がオレの鼓動を伝えているようで恥かしくなった。息が上がり上手く舌が使えない。キスだけでもこんなに鼓動と呼吸が苦しくなるなんて、自らするということの違いにオレは驚いた。そっと、歯列を越え日向の舌先に触れる。その舌先を舐めると同じように日向が応えてきた。それだけで、腰に熱が重力のように溜まる。深く唇を合わせるつもりで日向の背中に腕を回したのに、オレの手は肩甲骨の辺りのシャツを握り締めていてまた恥かしくなった。 唇を離すと、オレは深呼吸して自分がどうしたいのか考えることにした。そんなオレを、ヤツは笑っていると思ったけれど、日向は黙って額を合わせオレがしたいようにしだすのを待っているようだった。 オレは、先程からずっと気になっていた鎖骨にそっと唇を這わせ、思い直しかぷりと噛み付いた。日向は戸惑いに区切りをつけようとするオレの行動に咽喉の奥で笑うと、くすぐるように唇だけで耳に触れてくる。 オレは、もっとその肌に触れたくて日向のTシャツを脱がせた。 しなやかな筋肉に包まれた艶やかな肌。褐色の日向の肌で、その窪みが一段と深い影を落としている鎖骨から肩に掛け、オレは何度も口付け、やんわりと歯を立てながらはむように唇を這わせた。 「松山、オレも触りてえんだけど」 Tシャツの下に手のひらを潜り込ませ、腰骨のラインを辿っていた日向がわざと耳元をくすぐる。 「さわって」 自分の声が、先程ほど掠れなかったのがせめてもの救いだ。 「イヤダって言うなよ」 そう言って日向は釘を刺すと両脇を抱えオレに膝立ちさせた。Tシャツを捲り上げ、胸の突起に唇を寄せる。吐息が掛かるくらい近くで日向の体温を感じた瞬間、鳥肌が立った。ささやかな突起を舐め上げられビクリと体がしなる。 「あっ・・んうっ・・っっ」 いつもより緊張している所為か、物凄く感じる気がした。ハッキリと、自分がいま快感を感じているとわかる。 「は・・・はぁッ・・っっ」 触れるくらいに吸われ、歯を立てたかと思うと舌先で強く押し潰される。日向の両肩に腕を回し、その頭に縋りつくように覆い被さってしまう。柔らかな舌で舐め上げられるとオレの豆粒ほどもない突起が硬く立ち上がっているのが自分でもわかった。丁寧に舌先で愛撫され、その度に電流が走る。声は抑えようもなく、目尻には余りの快感に涙が滲んだ。 左手で空いたほうの乳首を愛撫されながら、もう片方の手がトランクスに掛かるのを感じる。オレは、この日に限って布地も薄い、余裕のあるトランクスを穿いていたことにいま気が付いた。とても確認できないけれど、そこはきっと日向からはそれとわかるくらい勃ち上がっている。背骨を辿りながらトランクスを押し下げてきた右手に、オレは先を越すように自分で脱ごうとした。脱がされるのが、なんだか余計に恥かしくて。 けれど、日向の首に掴まるかたちで膝立ちしている状態では太腿より先に押し下げることができず、震える体でなんとか片膝を上げようとしている時それまで背後に感じていた日向の右手が不意を衝いて前に添えられた。 「やっ・・・ぁぁ!」 「ヤだって言わねえ約束だろ?」 勃ち上がった先端から根元に向かい、手のひらを添えるように中指で触れられてオレは思わず腰を引いた。瞬間、やんわりと握り込まれる。 「あ、あ、だっ・・て・・!」 先端が、ぬるぬると日向の手のひらを汚しているのがわかった。くちゅくちゅと音を立てて扱かれ、いまにも射精してしまいそうな快感が出口を求め駆け巡る。 「松山、ここに」 日向のオレの先走りで濡れた指先が奥に触れる。 「自分で挿れてみてくれよ」 「え・・・?」 オレは、涙ですっかりぼやけた視界で日向を見下ろした。 「このまま、自分でオレのモノ咥えてみて?」 あからさまなその言葉にも一瞬反応できない。伸び上がりちゅっと唇に触れてくる日向にオレは多分耳まで赤くなって見せた。 「・・・っ、・・でっ・・てっ」 混乱して言葉にならないオレの腰を引き寄せ、真っ直ぐに目を合わせてくる。 「オレが、欲しくねえ?」 自信に溢れたその黒い瞳で。強い眼差しで、オレのすべてを奪おうとしている。 「・・・たい」 「ん?」 「したい」 初めと同じ言葉を、だけどより強い情熱を込めて投げ掛けた。 ボクサーブリーフに手を掛けると、布越しにも見て取れる怒張した日向自身に緊張が走った。トランクスをすっかり脱ぎ再び日向と向かい合ったオレは、汗ばむ両手で日向の下着を押し下げ、硬く怒張した屹立に右手を掛ける。ドクドクと脈を伝えてくる日向自身の、その熱さと硬さに驚いた。 「腰上げて・・・そう、オレが支えてやるから」 言われながらぎこちない動作で腰を上げ、中途半端な姿勢で先端をあてがう。 「ぁぅ・・・ッッ」 どうしようもないくらい不安で、日向の首に回したほうの腕で縋りつくとその肩に顔をうずめた。 「は・・っ・・ぁっ」 触れている指先から日向の脈が伝わり続けている。オレは思い切って、腰を沈めた。つもりだったが、実際は多分ほんの少し腰を落としただけだった。 「ふ・・・っあぁっ!」 ぐぐっと先端を咥え込んだのがわかる。だがそれ以上、中途半端で苦しい姿勢にもかかわらずオレは動けなくなってしまった。 「ダメッ・・できねえ!」 快感が迸る出口を求めて体中を駆け巡る。それなのに、未知の恐怖にオレの膝は固まり縋りつく日向に助けを求めた。ドキドキという鼓動が苦しいくらいで、胸が、頭が熱い。 「大丈夫。ゆっくり腰を沈めろ」 日向の声が、ほんの少し掠れているようだった。敏感な先端だけを嬲られ、余裕がないのは本当は日向も同じだった。 「できな・・っ」 ほとんど泣き声のような声を上げて、日向に縋りつく。オレの腰を支えていた日向が手のひらに、腰を沈めるようやんわりと力を加えた。オレは、諦めにも似た決意でもう一度、今度は両手で日向の腰に掴まり自ら腰を下ろす。深く息を吐きながら。 「ぁっ・・ぁっ・・!」 ずずっ・・と、長大な日向自身が刺し貫いてくるのがわかる。物凄い圧迫感に、それだけで頭がショートしそうになった。 「あ、」 ハァハァと、荒い呼吸だけを繰り返す。最後まで挿入できたのかさえわからなかった。 「動けるか?」 再び日向の首に縋りつき、苦しい呼吸を繰り返していたオレは言われるまま今度は腰を上げようとした。だが、日向のモノを締め付けたままオレの膝にはまったく力が入らない。あやすようにオレの頭を抱えた日向がゆっくりと、そのまま覆い被さる姿勢でオレを押し倒そうとした。「ヤ・・メロッ・・!」 しがみつくその上半身で、オレは日向を押し返した。 「ま・・って、最後までする・・から・・っ」 自分でも、自分がなにを言っているのかわかっていないような気がした。でも意地じゃなく、ただそうしたかった。だけどどうすればいいのかはわからずに、オレは思い付くままもう一度腰を上げようとした。何度も短く息を吐き、締め付けてしまう奥に意識をやらないようにしながら膝に力を入れる。ずっ・・とわずかに日向のモノが抜ける瞬間、いつもと同じ快感が突き抜けた。だがオレの体は思うように動かず、ほんの少し腰を上げてはまた下ろすのがやっとで、じれるような快感しか得られない。 「ぁっ、・・っ、んんっうっ」 それでも呼吸は更にハァハァと上がってきた。上ずるような声が止められない。気が付くと、日向が再びオレ自身に手を絡めてきた。 「ひゅうが、ヤメロッ・・」 くちゅりと上に扱かれ、思わず腹筋がビクリと痙攣する。 「・・いま、凄え締め付けたぜ」 ぁ、ぁ、と日向の手の動きに合わせて声が上がってしまう。オレは零れる涙も構わず懇願した。 「ダメだ、いっちまうってば、」 「何でダメなんだよ。一緒に達こうぜ」 オレの中の日向は、確かに体積を増していた。きっと限界まで堪えて動かずにいてくれるのに、同じ快感を共有してくれる。 身じろぐような拙い動きに合わせて、達しきれないオレに日向は揺するように突き上げてきた。 「ぁ、ぁ、ぁ・・・!!」 抱き合って肌を寄せた日向の腹部に、断続的に熱い飛沫を掛けてしまう。オレは、射精した後も余韻を搾り取るように数回腰を押し付けた。 物凄い脱力感に、されるがままベッドに横たわる。力を失った日向の屹立が引き抜かれると、与えられた快感を思い出し体が震えた。 「今度は、オレがする」 「え・・・?」 これ以上はもう絶対動けないと思っていたオレに、思わぬ言葉が降り掛かる。 「ここ・・・指じゃ届かねえけどこの奥・・いいんだろ・・?」 そう言って、日向はいまさっき日向自身から注ぎ込まれた滾りで熟んだ奥に中指を挿し入れてきた。 「やっ・・・あッ!」 驚きで背中がしなる。続けて差し入れられた人差指とともに中をくちゅくちゅとゆるく掻き混ぜられ、言葉とは裏腹にオレ自身が反応した。 「この奥・・・。オマエ、無意識にナカのオレに押し付けてたみたいだぜ?」 だからな、と声には出さず口の動きだけで日向はオレの膝を抱え上げた。あてがわれた日向自身は、いつのまにかその力を取り戻している。 「やあ、うそ、」 「ウソかどうか、すぐにわかる」 言い終わらないうちに、ゆるく勃ち上がった長大な日向自身が刺し貫いてきた。間髪を容れず、信じられないほど奥まで穿たれる。熱く熟んでいるであろうオレの中で、抽挿を繰り返さないうちにそれは体積を増し、より硬く反り返るのが絡み付く内壁から伝わってくる。ドクドクという脈を感じ取り、その筋張った竿から括れまでを感じ取っている自分が恥かし過ぎて、自分がわからなくなるくらいメチャクチャに突き上げられたいと思った。 その思いが伝わったかのように、日向が指摘した、オレのイイところを激しく擦り上げながら更にその奥を突き上げてきた。血管が一度に開き滾る快感と共に汗が噴き出した。 「あ、あ、あ!」 突き上げられる度に喘ぎが漏れ、それが擦り上げられるからなのか突き上げられるからなのかはわからなかったがそれでもオレは日向を求めて手を伸ばした。気持ちイイ。信じられなかった。 「ふ・・・ああ!」 オレは、打ち付けられるその逞しい腰骨にまで感じて、掴まるその肩に爪を立てる。オレの膝を折り曲げるように掴んでいた日向の手は、オレの体をふたつに折り抱き締め背中に回されていた。その腕が、肩がオレの足を大きく開かせその体勢は苦しくもあったがこれ以上なく日向とオレが繋がっている。快感とは別の涙が出る。 日向も強く感じているのが、動きに反して抱き竦めてくる力と与えられる口付けに込められていた。激しく軋むベッドの音さえ、厭らしさはなかった。溢れる体液でより放埓に貫かれ、絶頂が近付く。 「ひゅ・・がっ、ひゅうが、ひゅう・・・!」 乱れる呼吸と、打ち付けられる度途切れる言葉で繰り返し繰り返し日向を呼び続けた。 「ひかる、」 後で初めて名前を呼ばれたことに気が付いた。 最愛の相手に、名前を口にされることがあれ程快感だということをオレは知らなかった。 ただ、名前を口にすることはまだあの一度切り、ということに事後互いに無言で示し合ったのだけど。 二度目の射精の後は、憶えていない。多分、かなりしばらく意識を失っていた。 目覚めると、うつ伏せに枕に顔をうずめていたオレの肩に、日向の腕が回されていた。寝返りを打つ余裕は無かったけれど、それ以上に日向が起きているのか確かめるのが恥かしかった。 「大丈夫か?」 そんなオレを、いつもお見通しの日向が問い掛ける。ムカツク。 「・・・動けねえ。上向かして」 ヤケクソで甘えてみる。ぐっと返されると呼吸が軽くなり、疲労は心地よいものに変わった。 「日向、アレ買うとき恥かしかったか?」 「アレ? ああ、チョコレートか? 恥かしいに決まってンだろうが」 日向もどこか、ヤケクソのように見える。 時々チラリと見える、そんな表情はオレをほんの少し安心させる。 「サンキュー」 オレは残りの力を振り絞って日向に覆い被さると、こめかみに近い頬にキスをした。そのまま体重を預け直接体温を感じ眠りに落ちる。 気持ちイイ。 オレは日向になんにもやらなかったけれど。バレンタインだからたまにはこんな甘い日もアリだろう。 そんな勝手なことを考えながら、オレは本当に眠りに落ちていった。 END |